ブログネタ:教えて!電話やネットにまつわる「ちょっといい話」 参加中
おい、お母さんがたいへんなんだっ!
ひどく慌てた様子の父の声は、現実感がなくて
なにをふざけているんだと、最初は取り合わなかったけど。
そのとき、母はほぼ死に掛けていたんだ。
糖尿病を悪化させ、血糖値1000を越えて、
意識不明のまま、救急病院に運び込まれた母。
息子が駆けつけたときは、生命維持装置につながれて
ただ、心臓を動かしているだけの状態だった。
残酷なことに、その装置について仕事で取材していたので、
母がどんな状態なのか、リアルに理解できた。
いつもは非情なほど冷静な父は、まるでうわごとのように
なんでこんなことになったんだ…とつぶやいているだけ。
担当した緊急救命の医師や看護師から、これからのことを会話する。
一度心臓の止まった母は約1ヶ月、
意識が戻らないまま集中治療室で過ごした後に
少しボケて戻ってきた。
あれから15年経った。
当時、ケータイを持ってなかった父に、
覚えやすい番号だから、と自分の使ってたモノを渡した。
最初は、ジャマくさそうにしていた父だったが、
仕事の合間を縫って、母の様子を見にいく日々の中
いつでも連絡がつけられること
部下への仕事の指示や、客の対応などなど
だんだんとケータイのありがたみを感じたようだ。
母が闘病生活に入って、父の生活は激変した。
なかなか私生活が落ち着かない息子のことも、心配が絶えないようで
もはや通話だけでなく、いつしかメールを使いこなすようになった。
時に厳しく、時に優しく。
父のメールは、その会話からは想像もつかないほど
息子のことを勇気付け、はげまし、チカラづけてくれた。
ホントは、父のほうが勇気付け、はげまし、チカラづけられたかったはずなのに。
7年前、まだ仕事のパートナーだった美人妻のことが気に入った父は、
同じケータイの機種に変更して、家族割引をすすめた。
ある意味、ショップのスタッフ以上の熱心さだったが、
以来、美人妻の誕生日になると、新機種に変更するバースデープレゼントを続け、
ついに、ホントの家族割引になった。
いま、父のケータイは孫娘の写真で、たっぷり埋め尽くされている。
メールおやぢの老後は、実に幸せそうだ。