『DO NOT DISTURB  起こさないでください』

Boys Lover be ambitious !
オイラを腐兄化してくれたK師、りり様、柚子季さま、水無月さまに送ります。
*杜の都で行なわれた密会(御腐会?)にインスパイアされて書きました。

『Do Not Disturb.』
ココロのすべてを持っていかれるような恋なんて、
もう二度とするまい。
もうすることもないだろうと、
勝手に決めていた。
そう決めていたはずなのに…
いつも恋は不意打ちだ。
やさしくて
せつなくて
あまい痛み
しばらく止まっていた、
止めていたはずの、なにかが、コトリと。
動いた。
そのひとは、スッキリと立っていた。
騒がしい夜のコーヒーショップ。
サービスカウンタで、オーダーを待ちながら。
想像したより少し、背が高い。
ケータイ越しの声は、少し低くて、
年齢よりも大人びて聴こえた。
居心地のいい声。
手触りのいい服の生地のような。
「やぁ、どうしてた?」
正しくは「はじめまして」のはずなのに。
そんな挨拶がもはや自然で。
会話は、ゆっくりと始まり、
夜は、やがて華やかな表情になってゆく。
気の置けないスタッフが迎えてくれる
いつもの店のカウンターに並んで座る。
エアコンが効かないほど、店内は客でいっぱいだ。
不幸せなサラリーマンがいっぱいのこの街で、
これほど幸せそうな笑顔が拝める場所が、
ほかにあるのだろうか。
家族のように飲み物をつぎ合って、
意味もなく乾杯をくりかえす。
完璧に無駄なことは、
無理がなく、
美しい。
無駄を排した合理性や機能追求は、
人との関わりにおいては
実は、美しくない。
およそ愚にもつかぬ小さな話を積み重ねていくうちに、
互いのココロの距離が縮まってゆく。
くつろいだ快い時間が、流れる。
汗ばむほど暑くなってきた店内で、
彼は羽織ったジャケットを脱いだ。
「ちょっと、電話してくる」
シャープな輪郭に、筋肉が伴った、
美しく盛り上がった肩先に、しばらく見とれてしまう。
写真のように記憶できたらと思った途端、
振り向きざまに微笑まれた。
照れてうつむくと顔を覗き込んでくる。
イタズラを見つけた子どもを嗜めるように。
ドキリとした。
騒がしい店内での会話は、物理的な距離も縮める。
聴こえにくい言葉を、耳打ちしあう。
緩やかな酔いを伴って傾いてゆくカラダ。
意外に柔らかな感触。
甘い痺れを感じる。
もっと近くに。もっと側に。
このまま一緒に夜に沈んでしまおう。
ゆっくりと落ち着ける場所にいこう。
タクシーに乗り込み、もっと深い夜へと滑り出す。
流れる夜の灯りを背にした、彼の横顔は本当に、美しい。
「なぁ」
「ん?」
「なんでそんな風に微笑むんだ?」
「え、わからないよ。そんなこといわれても。」
「そうだよな。自分の笑顔が、ひとからどんな風に見られてるかなんて、わかんないよな」
(でも、知ってるかい? そんな風に素敵に笑える男は、そうそういないんだぜ。
 わかるかな。オレが今夜、どんなに幸せな気分なのかって。)
 
 モット チカク ニ
 モット ソバ ニ
 
灯りを落とした個室。
ソファに並んで腰を下ろす。
「飲み物、なんにしようか?」
「やっぱアルコール、だろ」
旨い酒を何杯もあおりながら、
バカバカしいくらいの恋の歌を、何曲も何曲も歌う。
借り物の歌詞だけど、
なんとなく今の気持ちに似ていると思うから。
それを伝えたくて伝えたくて伝えたくて。
きっと後で気づくんだろうな。
こんな風に自分の想いを説明しようとするなんて、
なんてバカバカしいことなんだろうって。
必要なのはコトバでなくて。
もう少し強い酒と、もう少し強引な自分。
そして、少し痛いくらいの、くちづけ。
恋は急いで。愛はゆっくりと。
恋愛とは何て矛盾だらけなんだ。
いつのまにか終電を逃していた。
常識的なエンディングを諦め、もう一杯付き合ってもらう。
人通りの寂しくなった路地を歩きながら、
彼の手を、握ってみた。
…振り払われるだろうか…
無用の心配だった。
しっかりとしたカンジで握り返してくる。
思わず笑いが溢れるくらい、嬉しい。
ずっと握っていたくなる、
そんな快さを感じながら、馴染みの場所に辿り着いた。
気の置けなさでは、都内有数のレベルではないだろうか。
酔った客のあしらいに長けたバーテンダー。見慣れた顔。
女性客に人気が高い、甘い、犬顔のルックス。
おしゃべりは、お笑い系。
彼もまた初対面とは思えない気安さで、
一緒に汚れた夜の会話を楽しむ。
今夜はお互い、よく笑う。
緩やかに預けあう肩が、心地よい。
質の良いカクテルの酔い心地のまま、
夢のような時間が流れてゆく。
まだ覚めやらぬ街。
始発が動き出す時間。
「地下鉄で帰ろう。送っていく」という。
高校生のような気分になる。
電車って、ホントに気が利いていない。
急いでいる時には、速く走ってくれればいい。
でも、
こんな朝は、時速3センチでいい。
なにも時間通りでなくて、いいのに。
定刻通りの運行スケジュールで、
下車駅に着いてしまった。
「せめて改札まで。見送らせろよ」
別れ汚さを嗜めるようにハグしてくれる。
切なくて、苦しくなる。
「ん、どした?」と書かれたような彼の顔が、
またうつむいてしまったオレを覗き込む。
「ゴメン…好きになった」
「うん。わかる。オレもだから」
少しチクリとする感触が、唇に当った。
「痛っ」
「あ、ゴメンごめん」
「あ、いや。オレも…痛かったんじゃないか」
「…オマエ、意外と髭濃いのな」
「…」
「ははは。痛みわけってコトだよ」
笑いながらもう一度抱きしめられた。
「この続きは、すぐ、だよ」
優しく低い囁き声が、艶かしく耳に残る。
無言で手を振る後ろ姿が、
2本後の上り車両の中へ消えた。
それから部屋に戻るまでのことは
あまり覚えていない。
オール明けの高揚は、すっかり醒めて
思い出すのは、
彼の声。
彼の笑顔。
彼の温もり。
きっと、もっと、好きになっちゃうんだろうな。
出逢いのはじめから、
こんなにも好きなのだから。
 今日から
 オレはキミのもの
 そしていつか
 キミはオレのもの
 時をかさねて
 ココロをかさねて
 きっと夢中にさせてみせるから
 
彼が歌った古いラブソングが、
アタマの中で何度もリフレインする。
朝の光が少しずつ力を増してゆくのをカーテンの向こうに感じながら、
オレは緩やかに、眠りに落ちていった。
「どうぞ起こさないでください」と、
ココロの扉に札をかけて。

“『DO NOT DISTURB  起こさないでください』” への9件の返信

  1. SECRET: 0
    PASS:
    すごくいいですこれ…!!!!
    カモ~ン!BLブログランキング!!ですね。
    恋の始まりを描いた物語。
    心の琴線に触れる言葉がいっぱいちりばめられていて、
    わたしが一番好きだったのはこの言葉。
    >完璧に無駄なことは、
    >無理がなく、
    >美しい。
    そうかぁそうかもしれないなぁと思いました。
    夜ごとに紡がれる無数のBLストーリーも
    無駄と言えばまさに無駄。
    無駄なことから始まった人と人とのつながり。
    飾らない心のふれあいがとても美しいものに思えます。
    もっと書いてーー!!
    きっともとの身体には戻れないわ…腐腐腐…。

  2. SECRET: 0
    PASS:
    貴方さまは一体誰なのでしょうか!?
    心臓がバクバクしてます!!
    スゴイ素敵で、はじめた会った時の柚子ねぇさまとの
    抱擁が蘇ってくるよう…
    やばいです…会いたくなります。
    もう2日立とうとしているのに、不思議とその感覚が
    思い出される。
    あーーー・・・
    パパン様!!!!!!
    ありがとうございます!!!
    こんな、素敵なSS!!
    夢見心地の杜の都…
    ヘロヘロのメロメロです(*´Д`)

  3. SECRET: 0
    PASS:
    ありがとうございます!
    ありがとうございます!!
    こんな素敵なSSに仕上げてもらって、柚子季はクネクネ悶えまくっております!!
    きゃ~~どうしよぉ~~嬉しい゜+.゜.(⊃Д`*)゜+.゜
    >恋は急いで。愛はゆっくりと。
    深い・・・深いわぁ~。
    あぁ、この余韻を引き摺って家事をやる柚子季orz
    この世界に酔いしれたままでいたいです(;つД`)

  4. SECRET: 0
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    俺ってヴぁ生き遅れ…違う!!
    ものっそ遅刻してますね凹
    すげ。すげすげ。さすがパパン。 ビビッた。
    なんだおー(´Д⊂グスン
    なんなんだおー(´Д⊂グスン
    感動と興奮とで…惚れt(ry
    ヒゲあたりのエピソードがリアルで。
    素敵(゚ー゚*)ポ。
    これが密会SSかー。溜息でるなぁ~
    ウットリ(ノ´∀`*)ハァ
    もう、ニコチン解禁してもイイデスカね?(違

  5. SECRET: 0
    PASS:
    お気に召していただいたようで、光栄であります。(ケロロ気味に
    無駄な時間こそ贅沢、なのです。
    今後ともよろしくお願いします。

  6. SECRET: 0
    PASS:
    柚子季さまとの密会のご様子を覗き読ませていただき、このような妄想が爆発したわけでございますが。気に入っていただき、よかったです。

  7. SECRET: 0
    PASS:
    喜んでいただいて光栄です。
    しかもキラキラとした‘ご返歌’をいただき、オイラこそクネクネしちゃいましたよ。
    夢の余韻、たしかに受け取りました。
    ありがとうございます。

  8. SECRET: 0
    PASS:
    元はと言えば、K師のアベイユにハマったのが運命でして。例の廉也の後日談(それにしても、あの男は秋仁なのか紫藤なのか、はたまた、りり様のとこのカッチョーさんなのか…)にしても、今回のDO NOT DISTURB.にしろ、こんなに触発されることなんて、未だかつて経験したことない出来事なのです。
    そういった意味でK師には、感謝が絶えません。(ホント、ご近所だったら毎晩ウチのダイニングで酒盛り三昧だったのにぃ…
    ヒゲのエピソード、リアルですか。リアルでしょ腐腐腐(謎
    ニコチソ、解禁おkでつよ。

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