まず、「フリーからもお金儲けはできる」というのは本書の中でなされる一貫した主張であるが、ここにまず違和感をおぼえる。言い方はキャッチーで目をひくが、「発生したコストを回収して利益をあげる」ということとの違いが私にはわからない。

(中略)

全体を通して「より消費者をひきつける価格体系はどのようなものか」という価格戦略の話が大半をしめ、目新しさは感じられない。

テクノロジーの進歩によりコスト構造が大きく転換したため、従来都度顧客にコストを転嫁しなければならなかったものが、その必要がなくなったというのは事実だし、大事な視点ではあるが、それをして「フリーからもお金儲けはできる」なんて言い方をしても本質から外れるだけだろう。

また、オープンソースを活用してビジネスをしている会社を例にとり、これを無料経済 (Free Economy)と呼んでいるが、ここにも強い違和感を覚える。確かに、ハードウェアメーカーは、ソフトウェアのライセンスが無償のオープンソースソフトウェアを活用し、マイクロソフトに追加料金を払うことなく、ハードウェア・OSを一式で販売している。でも、これは一部の原材料の調達に支払いが発生しなかったということにすぎない。

(中略)

ビジネスモデルをよく練らず、無償でウェブサービスを提供し始めたはいいが、収益源を未だ見つけられていない人にとっては、本書の言葉は耳障りがよいかもしれない。ただ、巨額な資本がなくても全世界を対象にビジネスをできることがなったということは、新規参入の障壁が下がり、競争が熾烈になるということを同時に意味する。「5%を無料(フリー)で提供して95%を買ってもらう」というビジネスから、「95%を無料(フリー)で提供して5%の人にプレミアム版を買ってもらう」というビジネスに転換したという視点は確かに面白い。ただ、小さくなった市場をより多くの人間でとりあうようになったという厳しい現実から目をそむけてはならない。確実に予想される激しい競争を前にすると「からお金を生みだす新戦略」というキャッチーなサブタイトルは私には色あせてみえる。

『フリー <無料>からお金を生み出す新戦略』におぼえる違和感 – Casual Thoughts (via syoichi) (via tajimaya)